冷えは万病のもと!? 低体温症について解説
投稿日: 2022年12月23日
寒い時季になりました。この時季は乾燥や冷えに注意をしないと、体調不良や病気にかかりやすくなります。とくに、冷えは万病のもとともいわれます。そこで、低体温やその結果起こる障害について学習しておきましょう。
日本人の平均体温
日本人の平均体温は、公式的には約60年前に10~50歳前後の健康な男女3000人を対象にした調査結果から、36.89℃±0.34℃とされています。しかし、中には「高い人で36.2~3℃」(石原結實『体温力』、PHP新書)と指摘する医師もいます。
体温はどうやって決まるのか
生物の身体は発熱機関でもあります。ヒトの場合、糖・たんぱく質・脂肪の「三大栄養素」を摂取することで、これらのもつエネルギーが酸化されて、エネルギーを発生します。そして、このうちの25~35%くらいがさまざまな活動に使用され、残りの65~75%が熱になります。
安静時の場合、熱産生はおよそ、骨格筋20%、肝臓20%、脳18%、心臓11%、腎臓7%、皮膚5%、その他は19%となっています。筋肉を動かして運動をするとカラダが温まるというのもわかりますね。また、運動不足で筋肉を使わないことが体温の低下につながることも想像できます。
一方、産まれた熱は、発汗や呼吸、排泄などによって体外へ放出していきます。なかでも、皮膚からの放散や蒸発は、全体の70%にものぼるとされています。このように、熱産生と熱放出のバランスから体温は決まっていきます。
体温が低下すると
体温には、心臓・肺・脳など重要な臓器が正常に活動するためのコア体温(核心温)と、皮膚や筋肉など表面部のシェル体温(外殻温)とがあります。コア体温は「深部体温」とも呼ばれます。通常、コア体温は37℃で恒常性が保たれていますが、低体温化していくと次のような状態が起こります。
- 36℃:震えが生じる
- 35.5℃:排泄に障害が起こる。アレルギーが現れる。
- 35℃:震えが最大化、ここから思考能力が低下する。がん細胞が活性化する。
- 34℃:持続的な運動ができなくなる
- 33~31℃:うとうとして意識がもうろうとする。幻覚が見え始める。血圧が測れなくなる。
- 32℃:震えが止まる。ろれつが回らない。
- 30~28℃:意識が喪失する。筋肉が硬直する。呼吸や脈拍が弱くなる。瞳孔が拡大する。
コア体温が35℃を下回ると「低体温症」と呼ばれます。また、27℃を下回ると死んだようになり、もっと低下すると死に至ります。低体温はたいへん危険です。
ちなみに、体温が1℃低下すると代謝の効率は12%落ちるとされています。代謝が落ちると血流が悪くなって、栄養や老廃物の運搬が滞るので、排泄が悪くなり、むくみや血液の汚れが出てきます。また、細胞や組織の働きが不活発になるので、全身の臓器が機能低下して、病気などに罹りやすくなるとも指摘されています。さらに、免疫力も体温が1℃低下することで30%以上減衰することもわかっていて、これもまた、低体温が病気にかかりやすくなる要因となります。感染症や自己免疫性疾患(喘息やアトピーから潰瘍性大腸炎やリウマチなど)に罹りやすくなり、がん発生の確率も高まります。
低体温症とは
低体温症は重症度によってⅠからⅤまでの5段階に区分されています。基準となるのは深部体温(コア体温)で、35~32℃がⅠ段階、32~28℃がⅡ段階、28~24℃がⅢ段階、24~15℃がⅣ段階、15℃以下がⅤ段階とされています。軽度のⅠでは、意識ははっきりしているものの震えが出てくることが特徴です。それがⅡになると、震えは止まり、意識障害が起こってきます。さらに、Ⅲになると、呼吸や脈拍はあるものの意識はなくなります。そして、Ⅳになると生命兆候が消え、Ⅴで死に至るという次第です。ですから、寒くて歯の根が合わなくなって、ガチガチと震えだす、というのは典型的な低体温症の始まりです。この段階はまだ、軽度の「警告」ともいえるでしょう。それがⅡになると、震えが止まって、熱産生が悪化し、急激に容態が悪くなると言われています。ちなみに、低体温症から自力で回復できる安全限界は34℃(コア体温)とされています。極寒の地、高山、冷蔵庫の中など、自然でも人工的でも、寒冷環境下にいるときには低体温症は要注意です。
<執筆者プロフィール>
井上 愛子(いのうえ・あいこ)
保健師・助産師・看護師・保育士。株式会社Mocosuku社員、産業保健(働く人の健康管理)のベテラン