園児を守る! 保育園看護師の役割と悩みを徹底分析
投稿日: 2019年01月28日
最終更新日: 2023年11月27日
執筆:藤尾 薫子(保健師・看護師)
医療監修:株式会社とらうべ
「カレンダーどおりに休んで、日勤だけで働きたい」という希望を持っている看護師は多いのではないでしょうか。
そんな希望をクリアする働き口の一つとして増えているのが、保育園看護師です。
あまり馴染みのない職種かもしれませんが、この頃人気が高まっている看護師の新しいフィールドです。
そこで今回は、保育園看護師の役割と悩み、その対策などについてご紹介します。
このページの目次
園児の健康を守る!保育園看護師のおもな役割
保育園看護師がケアをする対象は、おもに保育園に通う子どもたちです。
子どもたちの集団生活をサポートするために、保育士と協力しながら子どもの健康管理をしています。
保育園看護師のおもな役割は、次の3つです。
1. ケガや発熱時など体調を崩したときの対応
2. ケガや感染症の予防
3. 体調や発達についてのアセスメント・早期発見・早期対処
また、保育園看護師は、子どもたちの健康を常日頃から支えている保育士や保護者の健康相談にも応じます。
もっとも多い対応は子どもの体調不良やケガ!
元気に遊ぶことが仕事とも言える子どもたちは、年中転んだり、どこかにぶつけたり…といったケガをするものです。
ほとんどの場合は、市販の薬や絆創膏などによる応急処置で済むようです。
しかし、なかには脱臼や歯が折れかけた、といった大きなケガもあります。
そのときは、保育園看護師がつきそって病院を受診します。
また、とくに0歳児や1歳児はよく熱を出します。
保護者にお子さんが熱を出しているのでお迎えに来てほしいという連絡をした後、クーリングや水分補給などで対応します。
無事に保護者に引き渡すまでのあいだ、園児の状態が悪化しないようにケアします。
さらに、最近は食物アレルギーの子どもが増えていますので、注意が必要です。
アレルギーをもっている子どもには、アレルギー除去食を給食で出すか、お弁当を持参してもらいます。
ほかの園児と食べるテーブルを分けるなど、環境にも配慮します。
万が一誤ってほかの子どもの給食を食べてしまった場合は、アナフィラキシーショックの事態に備えエピペン注射を行います。
また、同様のケースに保育士が対応できるように、保育士にエピペンの取り扱いや注意点の講習を行うこともあります。
集団生活ではケガや感染症の予防も大切な仕事!
保育園では小さなケガが多いとお伝えしましたが、防げるケガは防ぐという意識のもと対策を講じることも必要です。
『児童福祉法施設指定基準』では、保育士の配置を「0歳児3人につき1人、1歳と2歳児6人につき1人、3歳児20人につき1人、4歳以上児30人につき1人」と定めています。
保育士や看護師だけでケガを防ぐには限度があります。
床や角にクッション性の緩衝材をあてる、ドアストッパーをつけるなど、保育士と協力してケガ予防の対策をします。
また、保育園は感染症にかかりやすく、広まりやすい場所です。
免疫力や抵抗力が十分に備わっていない子どもたちの間では、集団生活の場を通してアッという間に感染が広まってしまいます。
ですから、カゼや感染症が流行りやすい季節には保護者向けに「保育園だより」などで健康情報を発信して、家庭での予防や注意を呼びかけます。
園内では、保育士と一緒に子どもたちに手洗いうがいを指導します。
子どもの体調や成長・発達もサポート!
子どもたちの体調が良好化、健やかに成長・発達しているか、ふだんの様子からアセスメントしながら、必要に応じて保育士や保護者に伝え、ケアにつなげます。
具体例を挙げると、保育園では毎月一回身長体重測定があります。
子どもたち一人ひとりの身長と体重のバランスを見て、成長曲線にそって成長しているかアセスメントします。
成長曲線から大きく外れているときは、食事・運動・睡眠などの生活習慣やストレスなどの心理状態、ホルモンや骨の異常などの病気の影響が考えられます。
また、「発達障害かも?」と思われる子どもを適切なサポートに導くことも大切な仕事です。
「落ち着きがない」「先生の話が聞けない」「一人遊びが多く集団行動が苦手」、これらは子どもにはよく見られる性質です。
しかし、実は発達障害だったというケースも少なくありません。
子どもの成長や発達は、それぞれの個性や遺伝、家庭環境なども影響します。
そのため、保育士や保護者とのコミュニケーションを通じて、子どもの個性によるものか、保護者への指導や医療的なケアが必要なのかを判断する役目も担います。
保育園看護師の悩みは?
保育園看護師の役割について、おおよそのイメージはついたでしょうか。
基本的に健康な子どもたちが相手ですから、小児科勤務を経験していても業務内容は大きく違います。
次項からは、保育園看護師特有の悩みを見ていきましょう。
一人で判断するので責任も重い!
病院やクリニックではたいてい何人かの看護師で勤務しますので、困ったときや判断に迷うときは、周りの看護師と相談することができます。
しかし、保育園看護師は多くの場合一人体制です。
たとえば、園児がケガをしたとき、しばらく様子を見るか早く病院に連れて行くべきか、自分で判断をしなくてはなりません。
園児にとって、病院の受診は遊びを中心とした集団生活の場から離れることになります。
その意味では「心配だから病院に連れて行く」だけではなく、保育と医療とのバランスを見ながら緊急性を判断する視点が大切になります。
一日の大半は保育業務「私は保育士?」
ケガや体調不良の子どもがいない限りは、保育士と一緒に保育に携わります。
前述のとおり、保育士は、子どもの年齢によってクラスごとに配置人数の基準が設けられています。
なかでも0歳児と1歳児は、お座りや立ち上がりが完了していない赤ちゃんもいるため、ケガにつながりやすく保育業務が多いクラスです。
そのため、0歳時や1歳児クラスの保育業務のサポートに看護師が入るケースが多いようです。
また、咀嚼や飲み込みのアセスメントもかねて、昼食やおやつの介助に入ったり、乳幼児突然死症候群を防ぐため、お昼寝につきそったりすることもあります。
保育園によっては、0歳児は5分ごと、1歳児は10分ごと、2歳児は15分ごとに呼吸をしているか、看護師が確認している施設もあります。
0歳時や1歳児は、自分の思いを言葉で伝えることはできません。
泣いたりかんしゃくを起こしたりする子どものペースに合わせて、保育業務をサポートします。
看護師はあくまで保育士のサポートですが、場合によっては保育士から「保育の仕方」について指摘を受けることもあります。
医療スタッフとしてやりがいを持ってきた人にとっては、「自分は看護師なのに」と、保育園での業務にギャップを感じてしまうかもしれません。
保護者への対応が難しい!
子どもたちの健康と成長・発達をサポートするために、保護者との関わりも必要であるとお伝えしました。
昨今問題視されている「モンスターペアレント」しかり、場合によって保護者の対応には注意が必要です。
看護師として必要な対応をしたつもりが、保護者の怒りに触れることもしばしば起こります。具体例で見てみましょう。
<具体例 その1>
子どもが熱を出したので、電話で保護者にお迎えのお願いをした。
「仕事で忙しい!看護師がいるなら、夕方のお迎えまで見てください」と、一方的に電話を切られた。
<具体例 その2>
座って遊んでいた1歳の子どもが、後ろにひっくり返って床に後頭部を打った。
ゆっくりひっくり返ったので、ぶつけたといっても程度は軽かった。
すぐに泣いたし、コブもできていないので、念のためクーリングをした。
お迎えのときに保護者に伝えたら、「後頭部を打ったのに、なんで病院に連れて行かなかったのか。
これから後遺症が出たらどう責任を取るんだ!」と怒鳴られた。
<具体例 その3>
0歳児クラスからずっと登園している子どもについて、4歳になった今も毎朝受け入れのときに1時間以上泣いている。
一人遊びが多く、集団の輪に入って遊ぼうとしない。
気になったので保護者に相談したい旨を伝えたところ「ウチのしつけに問題があると言うのか。
私だって毎朝、一生懸命子どもをなだめているのに!それともウチの子どもが異常だと言っているのか」と叫ばれた。
これらは一例ですが、保護者は様々な事情や悩みを抱えて仕事と子育てをしています。
働く保護者にとって、保育園は味方でいて欲しいとすく少なからず思っていることでしょう。
保育園看護師は、そうした保護者の思いにも応えていく役割を担っています。
次項からは、保育園看護師の業務が楽しくやりがいのある仕事になるように、これらの悩みに対する解決策をご提案します。
保育園看護師の悩みを解消する方法
味方をつくる
一人体制が多い保育園看護師ですが、保育園には「園医」という医師が配置されています。
園医の役割は、子どもたちの健康と安全を守るために必要な助言と指導をすることです。
保育園に来るのは、園内の健康診断で半年に一回ほどと頻度は少ないですが、対応に迷うときは電話による相談も可能です。
また、グループ系列で運営している保育園では、各保育園に看護師を配置している可能性がありますので、自分一人で判断しづらいときはネットワークを通じて相談する手段も取れるでしょう。
そして何よりも、最も関わる機会が多い保育士とコミュニケーションを取り、連携を密にすることをおすすめします。
なかでも、保護者対応は看護師だけの役割ではありませんので、注意が必要と予想されるときは、担任の保育士にも同席してもらうとよいでしょう。
保育士はふだんから保護者とも接していますので、その保護者に合わせた適切な対応やアドバイスをしてくれるでしょう。
割り切って保育を楽しむ
保育園看護師は、子どもたちの健やかな集団生活のサポート役。
ケガや病気の対応が少ないと、看護師のやりがいが感じられない…と感じてしまうかもしれません。
しかし、健康な子どもたちが多いということは、そのぶん余裕をもって保育に従事できる…という見方もできます。
保育のサポートに入る時間が増えれば、子どもたちの日常の様子を知る機会にもなり、保育士との連携もスムーズになります。
いざというときは保育士が強い味方になってくれるでしょう。
「保育業務のサポート>看護業務」と割り切ることも大切です。
保護者の立場に立って考える
保育園に通っている子どもの保護者は、多くの場合仕事を持っています。
核家族化がすすみ、ひと昔前のように祖父母が子どもの世話をしてくれる家庭は減りました。
子育てと仕事を両立している保護者にとって、子どもの体調不良で急に仕事を抜けるような事態は、極力避けたいのです。
そのような保護者の立場に立って、大変な気持ちに共感し、丁寧に説明していきましょう。
保護者がリスクに備えられるように、情報を提供する、という意識も大事です。
たとえば、感染症の流行シーズンに「保育園だより」で感染症の予防と対策を伝えるほか、園内や近隣地域の発生状況をリアルタイムに伝えましょう。
また、「いつごろ、どんな感染症が発生したのか」「登園できる目安」「医師の登園許可は必要か」といった情報を掲示すると保護者の目にも留まりやすいです。
保護者は会社とのやり取りがスムーズになり、保育園にとっては、園内の感染拡大を防ぐことができます。
子どもがケガをしたときは、保護者にも適切なフォローをしましょう。
ケガをした状況、看護師として下した判断とその根拠、対応内容などを的確に説明します。
保護者にとって「帰宅後急に状態が変わらないか」「自宅ではどんな処置をすべきか」などが心配になります。
園内での対応にとどまらず、保護者の不安や疑問がどこから生じるか想像しながら、細かい点まで気を配って説明するとよいでしょう。
保育園看護師の役割と悩み:まとめ
- 保育園看護師のおもな役割は、子どもたちのケガや体調不良の対応、ケガや感染症の予防、体調や発達のアセスメント・早期発見・早期対処の3つである
- もっとも多い対応は子どもの体調不良やケガであり、受診が必要か否かの判断、適切な対応・処置のほか、保護者への連絡と説明を行う
- 子どもたちの成長・発達をアセスメントし、必要に応じて保育士や保護者に伝えケアにつなげる
- 子どもの健康と安全を守るには、保育士との協力が大切。保護者への説明や指導が必要となることもある
- 保育園看護師はほとんどが一人体制のため、一人で判断し対応する状況に責任を感じることも多い
- 園医や保育士と協力・相談することもできる。グループ系列で運営している保育園では、ネットワークを利用して系列内の看護師に相談も可能
- 保育園看護師の業務の大半は保育のサポート
- 医療的な対応は少ないが、保育士とコミュニケーションを図り、協力体制を作れるというメリットもある
- 子どもに対して必要な処置をしたつもりでも、説明の仕方次第では仕事をしている保護者の納得を得られず、怒りに触れることもある
- 「働く保護者」という立場に寄り添い、保育士と協力し良い関係を築きながら丁寧に対応するとよい
<執筆者プロフィール>
藤尾 薫子(ふじお かおるこ)
保健師・看護師。株式会社 とらうべ 社員。産業保健(働く人の健康管理)のベテラン
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供