需要が高まる「訪問看護」の仕事内容とは
投稿日: 2019年11月15日
最終更新日: 2023年11月27日
執筆:井上 愛子(保健師・助産師・看護師)
医療監修:株式会社とらうべ
医療の場が病院から在宅へとシフトする現代日本において、訪問看護のニーズは多様化し、その必要性はますます高まっています。
看護師のなかにも、訪問看護というサービスに興味を持っている人はいるでしょう。
訪問看護師の具体的な仕事内容や働き方などについて、基本的な情報をご紹介します。
このページの目次
ニーズが高まる在宅医療
通院が困難な患者に対して、自宅などを訪問し医療を提供する在宅医療。
病気やケガの治癒をおもな目的とする病院での医療に対して、在宅医療では、病気や障害を持っていても、その人らしい生活を送れるように支援することが重要視されます。
高齢化が進む日本では、介護を必要とする高齢者などが、在宅医療を選択するケースが急増しています。
社会保障費抑制の観点からも、医療を病院から在宅へシフトすることが推し進められているため、訪問看護のニーズはますます高まっているのです。
在宅医療にはさまざまな職種が関わっていますが、なかでも代表的なのは医師と看護師でしょう。
訪問看護師の人数は2016年時点で推定5万人、増加傾向とは言え依然として十分な数ではありません。
今後も訪問看護師の需要はより高まっていくことが予想されます。
【参考】訪問看護アクションプラン2025
訪問看護の仕事内容
在宅医療の中心を担う訪問看護師。
その仕事内容を詳しくみていきましょう。
おもな仕事は、自宅で療養生活を送る人に必要なケアを提供することです。
具体的には、以下のような項目が挙げられます。
・病状の観察
・在宅で清潔を保つためのケア
・床ずれを予防するための指導や処置
・点滴、カテーテル管理など医師の指示に基づく医療的な処置
・在宅酸素や人工呼吸器などの医療機器の管理
・リハビリテーション
・ターミナル(終末期)ケア
・家族への支援(介護方法や認知症、精神疾患のケアなど)
このように、ほとんどの業務は病院での勤務経験があれば対応可能です。
ただし、最も異なる点は、そのフィールドが対象者の自宅であること。
短時間での状態把握と適切な看護、また、日頃の介護を担う家族の相談に乗ったり、必要なケア方法を説明したりするサポートも重要な仕事です。
基本的には看護師が一人で訪問するケースが多く、所属する訪問看護ステーションなどのメンバーと連携を取りながら業務にあたります。
そのため、事務所で記録をつける、ミーティングを行うなど、情報共有も大切です。
また、医師やケアマネージャー、薬剤師、作業療法士、理学療法士、栄養士、ホームヘルパーなど、在宅医療に関わるチームメンバーとの連絡や調整なども必要不可欠な業務です。
訪問看護に関わるチームの役割分担
訪問看護を提供する事業所は、常勤換算で看護師が最低2.5人いれば開設できるため、小規模の訪問看護ステーションから、病院やクリニックに併設されている施設まで、その規模は多種多様です。
しかし、規模の大小に関わらず、訪問看護の仕事を円滑に進めるには、チームの役割分担が非常に重要です。
訪問看護ステーションの業務は、大きく管理者とスタッフの業務に分類され、それぞれ次のような仕事を担っています。
〇管理者
事業所の運営業務に携わります。
訪問スケジュールの調整を図り、関連する職種やケアチームとの連携の要(かなめ)となります。
さらに、新規の営業やレセプトに関わる業務、スタッフ教育など、訪問看護と聞いてイメージする仕事とはやや離れた、間接的な業務も担います。
〇スタッフ
日々の訪問看護が中心となりますが、サービス担当者会議への参加など、事業所の規模によっては、管理者に近い業務を兼務する可能性もあります。
また、24時間体制の事業所では、夜間や休日でも利用者からの相談を受けるため、「待機」と呼ばれる電話対応の仕事を当番制で担うケースも多く見られます。
訪問看護のプロフェッショナル「訪問看護認定看護師」
医療の専門分化や高度化が進む中、日本看護協会は「認定看護師」の制度を設けています。
21分野が指定されている「認定看護分野」には、「訪問看護」も含まれています。
訪問看護認定看護師の認定は2006年にスタートし、2017年時点で584人が認定を受けています。
「在宅療養者の主体性を尊重したセルフケア支援およびケースマネジメント看護技術の提供と管理」を担う、とうたわれている訪問看護認定看護師は、今後よりいっそう活躍が期待される人材といえるでしょう。
訪問看護認定看護師は、実際の現場において管理者とスタッフ、両方の役割を担うシーンが多々あります。
管理者の面では、訪問看護ステーションのマネジメント業務に携わり、看護師全体の教育や研修への関与、症例検討会やカンファレンスの実施などを通して、スタッフ全体の看護の質を高めることが重要な仕事です。
また、訪問においても、プロフェッショナルとしてさまざまな相談事への対応が増え、やりがいが大きくなると同時に、常に知識や技術をブラッシュアップしなければならない責任感も伴うでしょう。
【参考】日本看護協会News Release
訪問看護の適性
このように訪問看護の仕事は多岐に渡り、その専門性も高まっています。
臨床経験があることは望ましいのですが、新卒で訪問看護の分野にチャレンジする人も増えています。
学ぶ意欲があれば、幅広い看護の知識や技術を身につけられる職種といえるでしょう。
とくに、在宅での看護に興味を持っていて、患者と家族の実際の生活に寄り添った援助をしたいと考えている人、また、医師や多職種とも連携しながらチームで患者を支えることにやりがいを感じる人にとっては、より充実感を味わえるフィールドだと思います。
まさに看護の原点ともいえる仕事でしょう。
また、前述のとおり待機当番はありますが、基本的に日勤帯のみで土日休み、という事業所が多く、比較的ワークライフバランスを実現しやすい点も、訪問看護という働き方の魅力の一つです。
一方で、実際の訪問看護はほとんどの場合一人で行いますので、その場で必要な対処は自分自身で判断しなくてはなりません。
もちろん、ケアの方向性はカンファレンスなどで情報を共有し、不安な点などはチームで相談できますが、こうした働き方に苦手意識を持つ人もいるかもしれません。
働く環境やチームでの連携方法などは、事業所によっても大きく異なります。
訪問看護に興味をお持ちの人は、事業所の体制や特徴を詳しくリサーチして、自分の理想とする看護や働き方に合う職場を探すところから始めるとよいでしょう。
需要が高まる「訪問看護」の仕事内容とは:まとめ
- 在宅医療のニーズは高まっているが、訪問看護師の数は不足している
- 訪問看護師のおもな仕事は、自宅で療養生活を送る人に必要なケアを提供することである
- 仕事内容は、病状の把握から医療的な処置、家族の支援まで多岐に渡る
- 医師やケアマネージャーなど、多職種からなるケアチームとの連携も重要になる
- 管理者は、スケジュール調整や営業、レセプトなど間接的な業務も担う
- 訪問看護認定看護師は、高い技術の実践やスタッフへの指導等を担うとして、活躍が期待されている
- 訪問看護は、生活に寄り添った支援や多職種との連携に興味がある人に適したフィールドである
- 働く環境やチームの体制は事業所によって異なるため、訪問看護に興味がある人は詳しい情報を集めて、自分に合った場所を探すことから始めるとよい
<執筆者プロフィール>
井上 愛子(いのうえ・あいこ)
保健師・助産師・看護師。株式会社とらうべ社員、産業保健(働く人の健康管理)のベテラン
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供