看護師が英語を活かして働く機会になにがある?
投稿日: 2018年09月03日
最終更新日: 2023年11月27日
執筆:吉村 佑奈(保健師・看護師)
医療監修:株式会社とらうべ
近ごろ街中で外国人をよく見かけるようになりました。
日本でも急速に国際化が進んでいることを実感します。
そうであれば、今後ますます英語力の必要性は高まるでしょう。
我が国での少子化・超高齢社会による労働人口の減少も目に見えています。
海外からの観光客や外国人労働人口の増加が加速し、国際化はさらに進むでしょう。
このような背景から、英語ができる看護師のニーズも増えてくると予想されます。
このページの目次
英語は世界の共通語
英語は「世界共通の言語」と言われています。
現在、世界の人口はおよそ70億人、このうち実用的に英語を話す人の数は17億5千万人とのこと。
おおよそ4人に1人が英語を話しているという割合になります。
英語を話せるようになれば世界中の人とコミュニケーションをとれる、と言うこともできます。
イギリスやアメリカ、オーストラリアなど英語を母語とする人(いわゆるネイティブ)以外でも、近年英語教育に力を入れている国も多くなっています。
日本もかつてと比べて流暢な英語が話せる人は増えています。
看護師として英語を活かせる仕事
看護師が英語力を活かして働く場は案外多く、英語ができると仕事の選択肢は広がります。
具体的には次のような仕事があります。
- 国内の臨床現場(臨床看護師)
- 国外の臨床現場(国際看護師)
- 海外でのボランティア活動
- 企業(産業保健師、産業看護師、治験・医療器具メーカーなど)
- 病院での医療通訳
- 海外旅行業務(ツアーナース)
- 研究職や教職
それぞれを詳しく解説していきましょう。
国内の臨床現場(臨床看護師)
来日外国人増加に伴い、病院の外来・入院患者にも外国人が増えています。
よって、看護の現場でも患者さんの訴えや病状を把握するため、高度なコミュニケーションスキルを求められる場面がしばしば発生します。
外国人患者とコミュニケーションを図るには、日常会話のみならず医療用語も使わなければなりませんから、高い英語力が求められることも多いのです。
通訳がついて診療を行うことも可能ですが、医療通訳よりも看護師の方が臨床現場の知識や理解があるとして、今のところ、臨床現場においては英語が話せる看護師の需要が高い、という報告もあります。
海外の臨床現場(国際看護師)
海外では、日本の看護師免許を持っていると試験が簡略化され、その国の国家試験を受けなくても看護師として働くことができる国もあります。
その場合でも、国際看護師として勤務するには高度な英語力が求められます。
さまざまな「英語の資格」がありますが、具体的には、英語によるコミュニケーション力を測るTOEIC(Test of English for International communication:トイック )、英語圏への大学留学に必要な英語運用能力を測るTOFLE( Test of English as a Foreign Language:トーフル)、英語の熟練度を測るIELTS(International English Language Testing System:アイエルツ)などが挙げられます。
現地で看護師資格取得の際は、これらの資格の提示を求められることがあります。
国際看護師として海外で働くメリットは、英語力の上達だけでなく、海外の医療先進技術や看護知識などを習得でき、看護師の幅広いスキルや経験を身につけられる、という点が挙げられます。
ただし、前述の資格取得とコミュニケーション能力以外に、就労ビザの取得も必須ということをお忘れなく。
続いて、英語圏で看護師が働く場合必要な資格や役割についていくつか例を挙げてみましょう。
◆アメリカ
アメリカの看護師は医師と同等に近い地位を持っています。
平均年収は高く、一般的に医師と同等に議論をします。
NP(Nurse Practitioner)の資格を取得すると、薬の処方や医療行為などを行うこともできます。
そのため、医師の診療補助を主な業務とする日本の看護師と比較すると、より大きな責任が伴います。
日本の看護師免許だけではアメリカで働くことはできません。
必要な条件は語学試験の成績提出と、州の資格試験の受験です。
多くの州で実施しているのは、日本でも受験できるCGFNS(外国看護学校卒業生審議会)による審査です。
この審査をパスすると、NCLEX-RN(州看護審議会が主催する看護師のための試験)の受験資格が与えられ、合格するとアメリカで看護師として働く資格を得ることができます。
◆イギリス
ナイチンゲールの母国であるイギリスは、近代看護の発祥地とも言えます。
日本の看護師資格を持っていれば現地の学校に通う必要はありません。
勤務を希望する場合、書類審査を経て語学試験の結果提出により看護師として働くことができます。
給料はそれほど高くないものの、ワークライフバランスが充実しており日本のように「仕事漬け」になることはありません。
たとえば、ドイツ・フランス・イタリア・スペインなど大陸ヨーロッパが近いのでヨーロッパ旅行に行くとか、日本への里帰りで一ヶ月休暇を取る…なども可能です。
◆オーストラリア
日本とは違って、オーストラリアの看護師は全員が学士号(大学の卒業資格)を持っています。
ですから、オーストラリアで看護師業務に就くには、日本の看護師資格に加え大学卒業資格と英語力が求められます。
それらが揃っていれば、登録をして正看護師として働くことができます。
大学卒業資格がない場合は、現地の大学で卒業資格を取得する必要があります。
給料は日本と比較して高額ですが、税金も物価も高いです。
オーストラリアは世界有数の医療福祉先進国といわれていて、患者に寄り添った質の高い看護や先進医療を学ぶことができるでしょう。
また、アメリカと同様に日本では許可されていない医療行為や医師を待たずに看護師判断で治療をする、といった場面もあります。
海外でのボランティア活動
「青年海外協力隊(JICA:Japan International Cooperation Agency :独立行政法人国際協力機構)」や「国境なき医師団(MSF:Médecins Sans Frontières 」、「特定非営利法人ジャパンハート(発展途上国を中心に活動する国際医療ボランティア団体)」などに加入すれば、主に海外の発展途上国で看護師としてボランティア活動に参加することができます。
ただし、日本のように設備が整っていない環境下で、現地の人と協力して行う活動には多くの困難が伴います。
それだけに、看護師の技術を越えたさまざまな適応力・対応力・コミュニケーション力を磨くことができます。
看護師の立場でチャレンジをしてみたい、世界中のどこに行っても通用するスキルを養いたい…といった希望を持っている人には良いチャンスとなるでしょう。
・青年海外協力隊(JICA)についてはコチラから
・国境なき医師団(MSF)についてはコチラから
・ジャパンハートについてはこちらから
企業(産業看護師、産業保健師、製薬会社・医療機器メーカーなど)
企業の産業看護師・保健師の資格を持っていれば、産業保健師として社員の健康管理ができます。
加えて英語力があれば、外国人社員の健康相談や保健指導に携わる、海外赴任者から受領した英語フォーマットの健康診断結果を理解する、といった業務が可能になります。
ですから、なかには採用の際に英語力を重視している企業もあります。
また、出張で海外まで保健指導にいくケースも考えられます。
最近、外資系の企業が日本で活発に活動していますので、こうした企業から産業保健師を希望する案件は増えています。
製薬会社や医療機器メーカーなどでは、薬や医療機器の開発などに看護式の知識や経験が必要とされているため、看護師を採用する企業も少なくありません。
外資系や海外との取引が盛んな企業であれば、外国人社員とのコミュニケーションや海外に向けた営業などで英語力を活かして、グローバルに活躍するチャンスを得られます。
病院での医療通訳者
日本に滞在する外国人の増加に伴い、医療通訳者の需要が高まっています。
英語力はとても高いスキルが要求されますが、看護師の経験や知識があれば疾患や医療現場を熟知しているという点が強みになります。
海外旅行業務(ツアーナース)
海外への社員旅行や学校の修学旅行にツアーナースとして同行する業務です。
病人やケガ人が出た場合、現地の医療機関とコミュニケーションを取るなど、幅広い英語力が必要です。
研究職や教職
海外の論文には日本語に訳されていないものも多く、それらは高度な英語の読解力を必要とするケースが多々あります。
英語力があれば、海外に向けた論文作成や発表、海外視察などもできますから、日本国内にとどまらず世界で研究者として活躍する場が開けるかもしれません。
また、看護大学の教員になると、外国人留学生の受け入れ時や海外留学同行の際に英語力を活かす機会もあります。
英語を身に着けるにはどのようにすれば良いのか?
英語を習得する方法は数多ありますが、自分に合った方法を見つけるのが一番の近道です。
いくつか例をご紹介しましょう。
1. 看護留学や語学留学
看護留学や語学留学をして現地で生活すると、生きた英語を身に着けられます。
語学留学は海外の語学学校に通い集中的に語学を学習します。
留学に不安がある方は、エージェントを利用して留学に向けた登録や海外生活をサポートしてもらう方法もあります。
語学学校では語学レベルによってクラス分けをしていますから、英語力に不安があっても自分のレベルに合った授業を受けることができます。
2. 英会話教室
個別のレベルや目的に合わせ効率的に英語力をアップできるマンツーマンの英会話教室や、スカイプでの英会話、ワンコインで学べる英会話など、さまざまな形態の英会話教室があります。
医療系英会話に特化して学べる教室を利用するのもお勧めです。
なかには留学のサポートをしてくれる教室もあります。
3. 映画やメディアの活用
お気に入りの海外映画やメディアを繰り返し観ることで英語力を養います。
英語に慣れるまでは日本語字幕でも良いと思います。
日本語字幕に慣れたら英語字幕へ、英語字幕から字幕なしへ…と段階的に繰り返し観ていくと良いでしょう。
4.外国人の友達や恋人を作る
楽しく英語を覚えるには外国人の友人や恋人をつくるのが何よりです。
外国人の友だち作りは海外に行くと手っ取り早いのですが、冒頭でもお伝えした通り、昨今は日本国内にもたくさんの外国人がいます。
わざわざ海外に行かなくても友だち作りはできます。
たとえば、ランゲージエクスチェンジなど国際交流パーティーへの参加や英会話カフェの利用、外国人がいるシェアハウスに住むなどの方法があるでしょう。
日本在住の外国人は、少なからず日本文化や日本語に興味を持っていますから、文化交換(カルチャーミックス)・言語交換(ランゲージエクスチェンジ)を通じてお互いの文化や言語を知り、楽しく効率的に英語を学ぶことができる方法です。
お伝えしてきたように、英語力を身につけることで看護師として就ける仕事の幅が広がり、世界での活躍も可能になります。
また、看護師はストレスが多い職業ですから、気分転換に海外旅行をする人も少なくありません。
英語ができると安心して海外旅行を楽しめますし、外国の文化や人々の生活などへの理解もより深まるでしょう。
そうした経験は、看護師としての仕事の質の向上にも、きっと役立つに違いありません。
看護師の英語力 まとめ
- 在日外国人は増加している
- 臨床看護師にも今後は英語力が必要となってくる
- 英語力があれば、海外で看護師として働く道が開ける
- 企業内で海外に向けた業務を担当することができる
- 海外で論文の発表ができる
- 英語の勉強は自分に合った方法をみつけることが近道
【参考】
日本看護協会『海外の看護師資格取得について』
<執筆者プロフィール>
吉村 佑奈(よしむら・ゆうな)
保健師・看護師。株式会社 とらうべ 社員。某病院での看護業務を経て、現在は産業保健(働く人の健康管理)を担当
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供