看護師の転職:企業に転職する際に注意しておきたいこと
投稿日: 2019年12月26日
最終更新日: 2023年11月27日
執筆:山本 恵一(株式会社とらうべ 副社長・メンタルヘルスライター)
医療監修:株式会社とらうべ
ある調査では、企業に就職している看護師の割合は1%未満という結果が示されていて、看護師の一般企業への就職は「狭き門」という声もあります。
しかし、働く人たちの健康管理を行う産業保健の課題から、昨今は企業の側でも看護師へのニーズは高まってきています。
今回は、看護師が一般企業への転職を検討する際に、注意しておきたいポイントをお伝えします。
このページの目次
一般企業を志向する看護師:企業看護師
日本看護協会によると、2016年時点で就業している看護職員(看護師・保健師・助産師)の総数は、約160万人とされています(日本看護協会「看護統計資料」)。
当然のことながら、就業場所は病院や診療所といった医療機関が約81%と大勢を占めていますが、最近では、訪問看護や介護関連の施設等で働く人も増えてきています。
また、1%に満たない少人数とは言え、企業など医療機関以外で看護師のキャリアを活かして働く人もいます。
一般企業に勤務し、社員の健康に関する仕事を担う看護師を「企業看護師(あるいは産業看護師)」と呼んでいます。
就業した企業のルールに則り、規則的に勤務できる点などが支持され、近年人気の職種として注目を集めています。
企業への転職…人気が高い理由はどこに?
患者の病気の治療や、健康な生活をサポートする看護師はじめ医療職と、営利を追求し、社会の経済的発展への貢献がミッションである企業とは、組織としての目標や実際の働き方、風土などもかなり異なります。
にもかかわらず、長年勤めた病院を退職してまで企業に転職したいと思うのは、どうしてなのでしょうか?
背景には、医療や看護界の深刻な事情が影響しているようです。
看護職員の労働と健康の実態を明らかにすることを目的に行われる調査「看護職員の労働実態調査 報告書」をみてみましょう。
看護師の慢性的な人手不足、夜勤や交代制労働の過酷さ、有給休暇が取りづらい、賃金不払いなどの労働実態が明らかになっています。
さらにはこれら要因により、医療・看護事故の多発、メンタル不調者の増加など「このままだと安全・安心な医療・看護の提供が危ぶまれる」と結論づけられています。
看護業務は質・量ともに大きな負荷が伴うにもかかわらず、過重労働によって休息やリフレッシュができない事態を招いています。
また、せっかく使命感をもって看護職を選んでも、激務に追われ目標とする看護からかけ離れてしまい、やりがいや充実感を経験しづらい状況も広がっています。
このような労働環境が、医療機関以外での就業を望む、という現実につながるのではないでしょうか。
看護師が企業で働くメリットとして、次のような要素がよく挙げられますが、医療や看護の現場の過酷さとは実に対照的な要素だと思います。
● 夜勤や残業が少ない、休日や祝日がカレンダー通りに休める
● 医療ミスなど、重大な仕事上の過誤へのプレッシャーが少ない
● デスクワークなどが多く、身体的な負担が軽い
● 給料や福利厚生などの就業条件が整っている
ネガティブな理由で企業に就職するのは好ましくない!
こうした調査結果や看護師の声によって、看護業務の厳しい実情は、企業をはじめ医療・看護以外の一般社会でも認知されるようになってきています。
しかし、実際企業に就職する際、書類選考や面接の場において、転職理由をそのまま述べるのはあまりお勧めできません。
受け入れる企業の側からすれば、医療が嫌だから企業という単純な理由、あるいは、残業が少ないなどの条件面だけで、楽して働ける職場と見なしている…と取られる可能性もあるからです。
企業だってそんなに甘くはない、と反発心を抱かれるかもしれませんね。
看護師のあなたは、病院や医療の現場が嫌になり、このまま看護を続けているとワークライフバランスを保てず、家庭を持っているのに子どもも産めない、といった重大な事情を抱えているのかもしれません。
そうだとしても、それをストレートに企業への就職動機として訴えることは避けましょう。
大切なのは、企業に就職して何をしたいのか、何を実現したいのか、ポジティブな目的による就職活動なのです。
なおかつ、就職後もその目的達成をミッションに仕事に取り組み、企業人としてスキルアップに励むことで、企業の一員になれるのではないでしょうか。
企業看護師が行っている仕事とは?
それでは、看護師が企業に就職すると、どのような仕事を任されるのでしょうか。
代表的な業務内容をご紹介します。
〇 健康管理
企業の医務室や健康管理室では、社員の健康管理を目的に、定期健康診断の実施やその後のフォローアップ、ストレスチェックやメンタルヘルスケア、感染症や事故・ケガへの対処などを行っています。
最近では予防医療の最前線のような立場を担っており、単に健診やメンタル不調の社員への面接などだけではなく、健康に働くためのシステムの企画や、企業健康保険組合の担当者へのコンサルティングのような役割も期待されています。
就業している企業の業態、社員の状況等を熟知しつつ、医療者としてのアイデンティティも保ちながら働くという、複雑な面もあります。
〇 治験コーディネーター・臨床開発モニター
新薬の効果や安全性を調べることを治験といいますが、それに関わる仕事が「治験コーディネーター」です。
一方、臨床開発モニターは、治験が計画書やルールに則り適切に行われているか、モニタリングする仕事です。
いずれも製薬会社などに就職します。
企業で働くといっても、この両者の業務内容は医療系という側面が色濃く、医療職としてのアイデンティティを保持して働ける仕事と言えるかもしれません。
〇 クリニカルアドバイザー・クリニカルコーディネーター
医療機器メーカーや製薬会社などの営業職に同行し、医療職の立場から製品やその使用法などに関する情報提供やアドバイスなどを行う、一種の営業職です。
プレゼンやデモンストレーションをする営業先は、個人や一般企業だけではなく、販売代理店や病院の場合も少なくありません。
また、一方で病院スタッフなどお客さまの声を自社製品の開発にフィードバックする役割も求められます。
就職先は日本のメーカーに限らず、外資系もありますので、高収入も期待できる職種です。
〇 健康相談コールセンター
看護師の資格を活かしたコールセンター業務です。
たとえば、生命保険会社やクレジットカードの会員特典で、健康や医療、育児や介護、最近では栄養や運動なども含まれますが、病気や健康に関するさまざまな悩みを、電話やSNSなどで相談できるサービスなどが該当します。
直接企業が運営するケースと、コールセンター業務を扱う専門の企業に委託するケースがあります。
医療機関の案内や人間ドックの受付から、妊娠・育児相談、医療トラブルへのアドバイスといった、幅広い相談内容が展開されています。
また、医療機器や製薬業界、自治体の電話相談窓口でも、看護師の対応を必要とするコールセンター業務があります。
企業の求人へのアクセス
看護師のスキルを活かして企業への就職を目指すとき、求人はどのように探せばよいのでしょうか。
看護師として応募可能な求人、企業側が求める人材、就職までの手続き、雇用形態など、さまざまな情報収集が必要になります。
求人情報は次のようなルートから入手することができます。
● ハローワーク
● 看護協会の職業紹介や職業相談(ナースセンター)
● 医療機関などのホームページ
● 雑誌や広告
● 求人情報サイト
● 転職サイト(紹介会社)
● 知人や母校の紹介
自分の希望や目的、譲れない条件などを明らかにしたうえで、就職活動にあたってください。
その際、上記ルートだけではなく、紹介会社などのキャリアカウンセラーに相談すると、適切なアドバイスを受けられますし、場合によっては非公開求人を紹介してもらえるチャンスもありますのでお勧めです。
臨床には本当に戻りたくないのか?
繰り返しになりますが、看護職の企業への就職には、医療機関での就労の過酷さが影響していることが考えられます。
いわば逃げるような気持ちで、企業に就職したくなっているのかもしれないのです。
ですから、少し冷静に考えてみましょう。
いったん企業に就職すれば、当然ある程度の期間、医療の現場からは離れることになります。
もちろん、なかには企業での経験を経て、やはり自分は医療の現場で働きたい、という本心に気づき、再び臨床などに帰っていく看護師もいます。
しかし、たいていの場合、長く離れた現場に戻るというのは、困難な点も伴うものです。
本当に医療現場での仕事は自分に向いていないのか、何か解決する手立てはないのか、信頼できる人に相談するなどしてよく考え、自分の気持ちと向き合うことをお勧めします。
看護師の転職:企業に転職する際に注意しておきたいこと:まとめ
- 看護師の就業場所は医療機関が大半を占めているが、少数ながら一般企業など医療機関以外の場所で働く看護師もいる
- 企業で看護師として働く人は「企業看護師(あるいは産業看護師)」と呼ばれるようになってきている
- 仕事の重責によるプレッシャーや過重労働など、看護の現場での過酷さを理由に企業で働くことを望む声も多い
- 企業の面接では、医療機関で働くことの大変さや、ワークライフバランスの実現など、個人的な事情を動機のメインに伝えるのはあまりよくない
- 就職後の明確な目的を持ったうえで、転職活動や転職先での仕事に取り組む必要がある
- 企業看護師の仕事の例としては、社員の健康管理を目的とした健康診断をはじめとする業務、治験コーディネーター・臨床開発モニター、クリニカルアドバイザー・クリニカルコーディネーター、健康相談コールセンターなどが挙げられる
- 企業への転職を希望する際は、ハローワークやナースセンター、エージェントなど情報を持っている専門機関に相談するとよい
- いったん臨床の現場を離れると戻ることが難しいケースも多いので、本当に医療の現場を離れてよいか、周囲の人に相談しつつよく考えたほうがよい
<執筆者プロフィール>
山本 恵一(やまもと・よしかず)
メンタルヘルスライター。立教大学大学院卒、元東京国際大学心理学教授。保健・衛生コンサルタントや妊娠・育児コンサルタント、企業・医療機関向けヘルスケアサービスなどを提供する株式会社とらうべ副社長
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供