看護師には向いてない… ちょっと待って、「転職」が解決策になることも
投稿日: 2019年01月23日
最終更新日: 2024年02月20日
執筆:南部 洋子(助産師・看護師・タッチケア公認講師)
医療監修:株式会社とらうべ
「自分は看護師に向いていないのではないか?」誰しも一度は悩むのではないでしょうか。
そして、結果的に看護師を辞める選択をする人もいます。
しかしながら、一度立ち止まってみませんか。
あなたに合わないのは「看護師」という職業ではなく、その「職場」かもしれません。
「自分は看護師に向いていない」と決めつけてしまう前に、職場を変える、つまり転職を考えてみるのもひとつの解決策にならないでしょうか。
このページの目次
誰でも一度は悩むこと
看護師として臨床で数年間、一生懸命仕事に取り組んだからこそ「自分は看護師に向いていないのでは?」という疑問がわいてくるのではないでしょうか。
そんなときはまず、これまでの自分の経験を振り返って整理してみてください。
つまずきを感じるポイントは人それぞれ違いますが、たとえば「看護技術」「患者へのケア」「看護師間のチームワーク」「病院の組織」など、何が自分のネックになっているのか分析して明らかにしてみるのです。
日本医療労働組合連合が実施した『2017看護職員の労働実態調査』によると、看護師が「仕事を辞めたいと思うか」という質問に対して、次のような回答が上がっています。
・いつも思う:20.9%
・時々思う:54.0%
・思わない:16.4%
・わからない:6.1%
・空欄:2.5%
実に約75%もの看護師が「仕事を辞めたい」と感じつつ仕事を続けているという結果が示されました。
ですから、「辞めたい」と思っているあなたは、決して少数派ではないのです。
向いていないと思う理由
「自分は看護師に向いていない、だから辞めたい」という気持ちに駆られているときは、前項でお伝えしたとおり、一旦気持ちを落ち着かせて自分の足跡の振り返りをおすすめします。
「看護師に向いていない」という感情は何がきっかけで湧いてきたのか、考えられる理由として次のようなケースをご紹介します。
やりがいが見出せない
看護師は大変やりがいのある仕事である、と思われがちです。
資格を取得して看護師として働きたい、と胸を膨らませていた頃を思い出してみましょう。
資格を取れば一生働ける、結婚や出産後も両立できる働き方をしよう…などと思い描いていませんでしたか。
あるいは、患者や家族のつらい気持ちを支える看護師を目指そうと、高い志を持っていたかもしれません。
しかし、いざ実際に仕事をしてみると、やりがいを見出せず戸惑う人は少なくありません。
たとえば、病棟で患者と接する時間を大切にしたい看護師にとって、処置や決まった業務に追われてゆっくり話す暇がなければ、こんなはずではなかった、という気持ちになるのは想像に難くありません。
体力的についていけない
仕事に慣れてきて自分の周りを見渡すと、看護師以外の仕事、たとえば、企業に勤めている友人などはアフター5や週末を有意義に過ごしています。
疲れ果てて帰ってすぐ寝るだけの自分とは雲泥の差と、ライフスタイルの違いにショックを受けたことはありませんか。
「私の人生は、毎日毎日この繰り返しなのだろうか」そんな不安や疑問が湧き起こってきます。
自分の時間がまったくない、趣味や習い事はもちろん恋人をつくったりデートをしたりする暇もない…など焦りにも似た気持ちが出ることもあるでしょう。
看護師の仕事は、3交替制や2交替制といったシフト制で夜勤もあるため、ライフスタイルにも大きく影響します。
年齢を重ねるとともに、夜勤がつらくなってくるのは当然のことです。
時間的にゆとりがなく、身体の疲れが取れない…と感じ始めます。
体力的に困難な状況のとき、仕事にやりがいを感じられるはずはありません。
給料が安い
こんなに働いているのに給料が安い、という不満があるかもしれません。
命に関わる責任の重い仕事を担っているのですから、それに見合う収入とライフスタイルの充実を果たしたいと思う気持ちはよく分かります。
また、現在の給与は手取りでは多いように見えても、それは夜勤や超過勤務手当などが含まれているからに過ぎません。
基本給で見ると一般的に決して高い金額ではないことに気づきます。
自分の業務に見合うだけの給与を得ていない、という思いが強い人は、給与の高い職場を探してみてもよいでしょう。
ポイントを給与だけに絞れば、求人数は多いと思います。
ただし、そのために犠牲にする要素があるかもしれないことを忘れないでください。
人間関係が悩ましい
仕事の基本とも言える職場の人間関係ですが、看護師同士や看護師とほかの医療職などとの人間関係が上手くいかず、ストレスを抱えているという看護師は多いようです。
師長や周囲の人に相談しても改善されない場合は、まず勤務場所の異動願いを申し出てみませんか。
しかし、同じ病院内で心機一転を図っても解決に至らないケースでは、転職を検討してもよいでしょう。
「転職」は有効な解決策になり得るか?
実際に看護師として働いてみて、患者に感謝されたときや笑顔で退院する姿を見て、心から喜びを感じたこともあったと思います。
多くのスタッフと連携してチーム医療を行い、一緒に患者の命を救う、患者を元気にするという共通目標に向かって働いているときは、充実感を味わっていたはずです。
看護師の仕事は、こうした生身の人間との直接的な関わりからやりがいが生まれる仕事と言えます。
患者と接することで看護師の経験値は上がり、一人前の看護師に育っていきます。
命を預かるというプレッシャーや緊張感を伴いますが、その分得るものも大きく、緊張と喜びがいわば背中合わせであるとも言えるでしょう。
それでもなお「看護師を辞めたい」と思う気持ちが強いときは、もしかすると自分で「看護師」の定義を作り出しているかもしれません。
「看護師は日々の業務に追われるばかりで患者さんとじっくり関わることなどできない」
「看護師は夜も昼もなくただ働き続ける仕事だ」
「看護師として働いてもそれに見合った給料は稼げない」
「看護の現場で人間関係に疲れている自分は、今後看護師としてやっていけるわけがない」
…そんなふうに結論づけていないでしょうか。
しかしながら、問題は「看護師」という職業そのものではなく、現在の職場とのマッチングに起因していることもよくあります。
もちろん、ただ環境のせいにして逃げ腰になるのではなく、自分で職場環境を改善すべく働きかける、やりがいを見出す努力をする、といった取り組みも大切です。
今一度自分の気持ちと向き合い、看護の仕事自体には魅力を感じているのではないか?…と問いかけてみてください。
ミスマッチなのは現在の職場であることが分かり、しかし自分では現状を変えらないのであれば、職場を変えてみるという選択が解決に導いてくれるかもしれません。
看護師の経験を活かせる別の職種に就く、という選択肢もあります。
どのような転職先が候補になるか
新しい職場に何を望むかによって、転職先の候補は変わってきます。
いくつか例を挙げてみましょう。
患者さんとじっくり関わりたい
処置や業務に追われて人間的な関わりが不十分という点がネックの人は、職場を変えることによって驚くほどの差を感じるかもしれません。
単純に人員に余裕がある施設への転職だけでも違うと思います。
また、老人ホームなどで看護師が働くチャンスもあります。
介護施設の基本コンセプトは病気の治療ではなく、入所者の生活の質を上げることです。
看護師はバイタルチェックなどの業務と併せて、利用者のそばに寄り添い接する機会も増えます。
体力と時間に余裕をもちたい
看護師の本分にやりがいを感じていても、夜勤などがネックになって体力的なきつさを感じているケースです。
健康は何ものにも代えられませんから、精神的・肉体的に疲弊している状況は、できるだけ早く改善したいところです。
ただし、看護師の仕事に張り合いを持っているのに、看護師自体を辞めてしまうのは勿体ないので、まずは夜勤のない職場への転職を考えてみませんか。
たとえば、総合病院の外来や手術室、内視鏡室、放射線科、入院施設を持たないクリニック、などは基本的に夜勤がありません。
施設にもよりますが、訪問介護や介護施設なども夜勤のない職場は多いです。
最近では日勤のみの看護師を募集している病棟もありますが、まずは現在と同じ職場で日勤だけの働き方に変えてもらえないか、相談してみてはいかがでしょうか。
穏やかな気持ちで働きたい
人の生死に向き合うことがつらく、重責を感じている場合は、病気の人が対象にならない職場を検討してみてはいかがでしょうか。
候補として、産業保健看護師・保育園看護師・学校保健看護師・ツアーナース・イベントナース・血液センター看護師などの職種が挙げられます。
また、近所のクリニックでパート勤務などの雇用形態を選べば、患者は近隣の住民が多いでしょうから親しみを持ちやすく、比較的穏やかな気持ちで働けると思います。
あるいは、訪問入浴看護師という仕事もあります。
看護師はスタッフと同行して、利用者の入浴が可能か判断します。
具体的には、バイタルチェック・脱衣の介助・浴槽移動・シーツ交換・着衣の介助・軟膏塗布などを行います。
入浴の介助をするのは一日に6~7人、ただし異常が見受けられた際は入浴させません。
介護職とともに数名の組で対応しますが、それぞれ看護職・介護職としての役割が分担されていますから、気持ち的に落ち着いて従事できるでしょう。
高い給与がほしい
現在の病院よりも高い給与を払ってくれるところはあります。
しかしながら、給与は高いが残業や夜勤回数が多い、環境が劣悪など、マイナス要素が含まれる病院も多いですから注意しましょう。
給与が比較的高額な転職先の候補は、公務員として働ける病院や施設、基本給が高く手当も充実している病院、経営状態が安定している病院などが挙げられます。
また、看護師の経験を活かして働ける高給の仕事もあります。
とくに給与が高いのは次のような仕事です。
・治験コーディネーター(Clinical Research Coordinator:CRC)
厚生労働省の正式な認可を得るため新薬の効果や安全性を調べることを治験といい、それに関わるのが「治験コーディネーター」です。
患者に対する治験内容の説明や患者の相談相手になり不安や負担を軽減するなどのサポートをします。
事務作業や計画書・報告書などの作成も多いため、パソコンのスキルは必須です。
給与のスタートは前職の経験や能力によって違いますが、入社して数年経ち、自分一人で業務全体をオペレーションできるようになると、年収1,000万円以上という人もいます。
・臨床開発モニター(Clinical Research Associate:CRA)
「臨床開発モニター」は、治験が計画書やルールに則って適切に行われているか、モニタリングする仕事です。
全国の治験を行っている病院を訪問しますが、外資系企業の製薬会社では海外出張もあります。
CRAは白衣ではなく、スーツを着て仕事をします。
給与は初年度で400~500万円程度ですが、病院勤務の看護師と違って、実力と実績によって昇給が可能です。
経験を積んでいくと看護師よりも平均年収は高くなり、キャリアアップや高収入を得たい人に向いています。
濃密な人間関係がないところで働きたい
毎日同じ職場で同じ人と顔を合わせているばかりで息が詰まる、そもそも濃密な人間関係が苦手、限られた狭い範囲の関係性に疲れた…など、人間関係が障害となっている人も多いと思います。
学校の遠足や修学旅行などに単発で同行するツアーナース(旅行添乗看護師)という仕事をご存知でしょうか。
同行する生徒や先生はその都度違いますし、行先は全国各地ですから新鮮な気持ちで臨めます。
また、音楽イベントやスポーツイベントなどで、急病人が出たときに備えて募集されるイベントナースや献血ルームでの勤務なども、単発ですから合っているかもしれません。
自治体や企業の健診業務もよいでしょう。
お読みいただいて、どのように感じられたでしょうか。
看護師という職業そのものではなく、勤務条件がネックとなっている場合は、実際に辞めてしまう前に少し時間をもってゆっくり考えてみる必要があります。
どうして向いていないと思うのか、なぜ辞めたいと思ってしまうのか、冷静に書き出してみることをおすすめします。
そして、自分の気持ちを整理して原因を突き詰めると、「転職」という選択肢を含め今後どうすべきか道が開けてくるのではないでしょうか。
まとめ:看護師に向いてないから辞める前に「転職」を考える
- 看護師をしていると誰しも一度は「自分は向いていないのではないか」と悩む
- 辞めたい理由としては、やりがいが見出せない、体力的についていけない、給与が安い、人間関係の悩みなどが挙げられる
- 勤務条件や現在の職場だけがネックの場合、看護師を辞めずに転職する方法がある
- 患者とじっくり関わりたい場合は、介護施設や人員配置の多い施設などがよい
- 体力と時間に余裕をもちたい場合は、夜勤のない職場や、パートや単発の看護師の業務など選択肢は多い
- 生死に関わらない穏やかな職場で働きたい場合は、病人を相手にしない仕事や、近所のクリニック、訪問看護などが候補になる
- 給与が安いことがポイントの場合は、高収入を望める職場として公務員や経営が安定しているところやCRC・CRAなどがある
- 濃密な人間関係がネックの場合は、単発のツアーナースやイベントナース、健診業務などが挙げられる
こちらの記事もぜひご覧ください。
<執筆者プロフィール>
南部 洋子(なんぶ・ようこ)
助産師・看護師・タッチケア公認講師・株式会社 とらうべ 社長。国立大学病院産婦人科での経験後、とらうべ社を設立。タッチケアシニアトレーナー
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供