看護師不足のときだからこそ、巡ってくるチャンスについて
投稿日: 2019年01月25日
最終更新日: 2024年02月21日
執筆:座波 朝香(助産師・保健師・看護師)
医療監修:株式会社とらうべ
看護師の働く環境は慢性的な人手不足と言われて久しい昨今、人手不足だからこそ回ってくる「チャンス」について考えたことはありますか?
新たな環境で働ける可能性、いま求められているスキル、需要が高まっている分野など、看護の未来に目を向けてみましょう。
このページの目次
看護師不足は実際に深刻なの?
看護師不足の実態は、看護職の労働実態調査などで指摘されています。
政府推計では、高齢化がピークになる2025年には、看護職員数200万人が必要、といった数字も示されています。
一方、『めざすべき看護体制の提言』(日本医労連2014年発行)では、合計300万人が必要としています。
『2017年看護職員の労働実態調査結果報告』によると、平成28年末の就業保健師等(保健師・助産師・看護師・准看護師)の人数合計は約142万人に留まっています。
いずれにせよ、相当数が不足しているという状況は明らかです。
この慢性的な人材不足によって仕事量が増え、さらに仕事量の多さがストレスや体調不良につながっていると指摘されています。
日本看護協会や各病院では、看護師のよりよいワークライフバランス実現のためにさまざまな対策をとり、心身ともに健康な状態で仕事に従事できる体制を目指しています。
看護師不足だからこそ働きやすい環境に巡り合える!
厚生労働省の『看護職員就業状況実態調査』(2010年版)によると、退職経験のある看護師でもっとも多い退職理由は「出産・育児のため」(22.1%)となっています。
一方、現在働いている看護師がその職場で勤務を続けている理由を見ると、上位から順に「勤務形態が希望通りである」「通勤の利便性が良い」「雇用形態が希望通りである」と続いています。
看護師不足の原因を、こうした調査結果から推測してみます。
看護師本人としては、自分に対応可能な勤務条件が整っていれば働き続けることは可能なはずです。
しかし、そのような条件を備えた施設に巡り合えていないために、長く働けないでいる…という背景があると考えられます。
病院などの施設側も、看護師不足を嘆いているばかりではなく、雇用形態を見直すなどしてより働きやすい職場環境づくりが求められています。
子育てや介護などさまざまな制約のある人にも配慮した条件を整えられれば、看護師不足を解消する可能性も出てくるのではないでしょうか。
看護師の数が絶対的に足りていない現状では、良い条件を提示して看護師を募集する施設もあります。
たとえば、病棟勤務でも日勤のみでよいなど、人手を確保するためにフレキシブルな働き方を受け入れている施設も見受けられます。
現在は売り手市場であること、ワークライフバランス推進が図られている時代ということも労働環境の改善に作用しています。
こうした背景もあり、看護師不足の今だからこそ、より働きやすい職場と出会えるかもしれないのです。
看護師不足解消のための復職支援も!
前述の調査に示されているとおり、看護師はライフステージにおいて出産・育児を機に離職するケースが多いようです。
実際に退職した人からは、以下のような声を聞くことが少なくありません。
*復職するにあたって看護や医療の知識・技術に自信がない
*子育てをしながら就活するのが難しい
*子育てと仕事を両立できるのかイメージが湧かない
これに対して、各都道府県には職業紹介事業を行う「ナースセンター」という機関が設置されています。
「ナースセンター」では看護師不足を解消するため、看護師の復職を目指す人向けに研修や実習を企画しています。
仕事とプライベートを両立する方法など働き方の問題とともに、医療現場に戻って新しい知識や技術が現在どのように活用されているか学習できるシステムです。
こうした復職支援をはじめとして、看護師が安心して現場に戻れるような支援が広がりつつあります。
看護師の需要が高い分野へのチャレンジ!
目下、看護師の需要が高い分野のひとつが、訪問看護や介護施設などにおける看護業務です。
日本看護協会が重きを置いている政策のなかに『地域包括ケアにおける看護提供体制の構築』という取り組みがあり、訪問看護や介護施設などでの人材確保に力を入れています。
たとえば、病院に在籍しながら訪問看護ステーションへ出向する「訪問看護出向事業」が挙げられます。
病院の看護師も訪問看護に従事できるように、人材不足解消と人材交流を目的に実施されます。
看護師は現在働いている病院に籍を置いたまま、訪問看護ステーションで一定期間の研修を受けると訪問看護の実務に就くことができます。
訪問看護ステーションでは、日常生活における看護ケアのスキルアップが図れます。
さらに、その経験を院内での看護や退院支援に活かすことができます。
ふだん病院に勤める看護師は「入退院が激しくて目まぐるしい」「日々の業務に追われるばかりでやりたい看護ができない」という思いを少なからず抱いているものです。
病院など施設内での業務過多により、施設と生活を結ぶ入退院指導や、日常生活でのセルフケアなど、看護師にとって重要な業務に時間をかけられない現状を嘆く人も多いでしょう。
こうした訪問看護出向事業に携わることで、病院での看護の質も高まる可能性が生まれます。
事業の活用を上司に提案してみてもよいのではないでしょうか。
看護師に求められている新しいスキルへのチャレンジ!
専門職である看護師は、常に新しい情報のアップデートとスキルアップのための勉強を心がけていると思います。
看護師が不足している現代、看護師にはどのようなスキルが求められているのでしょうか。
たとえば、厚生労働省や日本看護協会では『特定行為に係る研修制度』というスキルアップの方法を提示しています。
看護師は基本的に医師の指示のもと診療を補助しますが、看護師が患者の状態を観察・アセスメントして実際の医療行為にあたるまでにはタイムラグが生じます。
このタイムラグは、医師への報告時間や医師が医療行為について判断し看護師に指示するまでの時間です。
しかし、今後在宅医療を推進していくには、医師の指示を待たずに、あらかじめ出された手順書に従い一定の医療行為を行える看護師が求められているのです。
「特定行為に係る研修制度」では、とくに専門的で高い技術や知識が求められると指定された特定の医療行為を、タイムリーにかつ安全に、効果的に行える看護師の養成と確保を目指しています。
この先需要が高まる訪問看護や介護現場で働くことを見越して、このようなスキルを磨いておくと役に立つ可能性があります。
今回ご紹介した分野やスキルは、最近の看護界の動向のごく一部です。
看護師の経験を活かすフィールドは、このほかにも広がってきています。
看護師不足の現代だからこそ、従来のあり方に捉われていてはいけません。
個々の経験を最大限に活用するにはどのように行動すべきか…という視点を持つことで、また新たなチャンスも生まれるでしょう。
せっかく看護師として働くのですから、自分の得意・不得意や、興味・関心のポイントを見極めて、イキイキと自分らしく働きたいものですね。
看護師不足のときだからこそ、巡ってくるチャンスについて:まとめ
- 看護師のストレスや体調不良をもたらすほど、看護師不足が深刻化している実態がある
- 看護師として勤務を継続できている人は、多くの場合勤務形態や雇用形態が自分の希望とマッチした職場で働いている
- 看護師は、ライフイベントのなかでも出産・育児のタイミングで職場から離れる人が多いが、復職を支援する動きも広がりつつある
- 看護師のニーズが高まっている分野のひとつに、訪問看護や介護施設での看護が挙げられる
- 「訪問看護出張事業」は、病院に在籍したまま所定の研修を受けたうえで訪問看護に従事する仕組みである。看護師不足解消と人材交流のみならず、看護スキルの向上にもつながるとして期待されている
- 「特定行為に係る研修制度」は、訪問看護での需要などを見込み日本看護協会が推進している看護師のスキルアップ方法である
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<執筆者プロフィール>
座波 朝香(ざは・あさか)
助産師・保健師・看護師。大手病院産婦人科勤務を経て、株式会社とらうべ社員。育児相談や妊婦・産婦指導に精通
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供