男性にも「つわり」がうつるってホント?
投稿日: 2024年03月14日
妊娠中にさまざまな体調不良になる「つわり」ですが、妊婦だけでなくパートナーである男性も体調が悪くなることがあります。「まさか!」と思われるかもしれませんが、どういうことなのでしょうか。解説します。
男性のつわり、その正体は「クーヴァード症候群」
いわゆる「男性のつわり」は「クーヴァード症候群」と呼ばれています。クーヴァード症候群は、女性の妊娠・出産期にパートナーである男性にもつわりのような症状が現れるものを指します。症状としては、吐き気・食欲不振、・頭痛・胃痛・めまい・感情の変化(イライラや不安、涙もろくなるなど)・食の好みの変化・嗅覚の変化などが挙げられています。まるで、女性のつわり症状と同じみたいなので、「男性のつわり」と認識されることがあるようです。
クーヴァード症候群の名前の由来となっているのは、フランス語古語の「クーヴァード( Couvade )」です。「鳥が卵を抱く」という意味に由来していて、民俗学では「擬娩(ぎべん)」と訳されています。擬娩とは、出産の前後にパートナーである男性側も一緒に苦しんだり、苦しむふりをするという、未開の社会での風習を指します。たとえば、妻の出産期に夫が守るべき禁忌があって、ある特定の食べ物を食べてはいけないとか、狩りや漁労をしてはならない、むやみに外出しないで家にいるかじっと横になっている、といった習俗も含まれていたようです。
女性のつわりがおさまると症状が軽快することも
どうしてクーヴァード症候群が起きるのかという医学的な理由はハッキリとはわかっていませんが、妻の体調の変化に強く同情したり、妊娠中の妻に代わって家事や子どもの育児をしていることに疲れてしまったり、あるいは、パパになるプレッシャーを妻のつわりから感じてしまったりすることでさまざまな症状が起こってくるとみなされています。ですから、妻のつわりを「大変つらい体験だな!」と感じる同情心が強かったり、慣れない家事や育児にストレスが極まってしまったり、父親になることのプレッシャーや不安を強く感じたりといった「精神的・心理的」な要因が、症状を起こさせるのではないかと考えられています。こうしたことを「心因性」と呼びます。クーヴァード症候群の原因は心因的なものではないかと今のところはみなされています。ですから、妻のつわりの時期が去ると自分の症状も消えることがよくあるようです。
男性の体調不良は症状別の治療が基本
産婦人科に受診する妊婦の場合と違って、多くの男性はそれぞれ症状別に受診をします。たとえば、胃痛や吐き気が止まらないので内科を受診するみたいにです。ですから多くの場合、たとえは「夏バテ」のような「機能性の異常」とみなされ、「男のつわり」と診断されることはめったにありません。同じように対処についても、胃酸を抑制する薬を処方されたり、吐き気止めを飲むよう指示されたりといったことが多く、まさか、妻の妊娠に関連して自分にも症状が現れていると理解されることはほとんどありません。それでも、女性の妊娠に伴って男性にも症状が現れることがあるのは、古くから知られている事実のようです。
<執筆者プロフィール>
井上 愛子(いのうえ・あいこ)
保健師・助産師・看護師・保育士。株式会社Mocosuku社員、産業保健(働く人の健康管理)のベテラン