看護師のお仕事:治験機関でのお仕事について
投稿日: 2018年09月03日
最終更新日: 2023年11月27日
執筆:南部 洋子(助産師・看護師・タッチケア公認講師)
治験に関わる仕事をご存知でしょうか。
病棟勤務をしているとあまり知らない世界かもしれません。
新薬の治験を行う場所にも看護師の仕事はあります。
ここでは、治験機関でのお仕事について紹介していきましょう。
このページの目次
治験機関での仕事:治験とは
新しい薬を作るときには、安全性や有効性を確認するために、人間に使用する前にまず動物での試験を行います。
動物で有効なら、次には人体に投与してみる必要があります。
人間に対してどれほど効くのか、どれほど安全なのかを確かめる必要があるからです。人体に投与した結果に問題がなければ、そこで初めて安全性や有効性が保証されて承認されます。
そして、まだ承認されてはいない段階で患者に対して行われるものを「臨床試験」といいます。
特に、厚生労働省から新薬として製造承認してもらうための申請データを集積する臨床試験を「治験」といいます。
治験は人間を対象とした試験ですから、厳密に慎重に、そして安全に行わなければなりません。
厚生労働のホームページでは、治験の行われるところは、下記の要件を満たすところと定められています。
- 医療設備が充分に整っていること
- 責任を持って治験を実施する看護師はじめ、医師や薬剤師などがそろっていること
- 治験の内容を審査する委員会を利用できること
- 緊急の場合には、必要な治療や処置が直ちに行えること
また、治験を行うためのルールは、次のようなものです。
- 1. 治験の内容を国に届け出る
- 2. 治療の内容は治験審査委員会で前もって審査する
- 3. 同意が得られた患者のみを治験に参加させる
- 4. 重大な副作用は国に報告する
- 5. 製薬会社は、治験が適正に行われていることを確認する
次に、治験機関には、2つの区分があります。
受託臨床試験実施機関(CRO)
製薬企業の業務を受託する企業として、製薬会社から新薬の開発を委託されて、日本の中で治験のモニタリング業務、回収された症例報告書のデータ化、データマネジメント業務、治験薬の効果を統計的に検証する統計解析業務などを行います。
治験実施施設管理機関(SMO)
治験は医療機関と製薬企業とが協力して行うものです。
SMOは治験を行う医療機関の業務について支援を行います。
治験を進めるに当たって発生するさまざまな手続きや、医師や医療関係者が治験を行う際にそれを全面的にサポートする機関です。
治験機関での仕事:看護師の仕事
治験に携わる仕事として、治験コーディネーター(CRC)と臨床開発モニター(CRA)の2つがあります。
どちらも看護師の資格は必須ではありませんが、看護師の経験や知識を活かして働ける仕事です。
治験コーディネーター(CRC)
治験コーディネーターは、一般企業の治験施設支援機関(SMO)か、治験を行っている病院で働くことになります。
治験を実務レベルでサポートして、治験を実施する医療施設側の立場で管理や調整を行うことが役割です。
病院内で治験の実施内容や治験薬の有効性・安全性などの結果が患者に誤解なく伝わり(インフォームドコンセント)、それにまつわる不安や心理的負担を軽減するために相談相手になり、被験者の精神的なサポートをしていきます。
治験が無事に終了してその薬が晴れて公になったときは、医師やスタッフと連帯感や達成感を共有することができます。
その治験に参加した患者から、治験に参加してよかった、薬が効いた、と感謝されることがあれば仕事の充実感も得ることができるでしょう。
医師以外にも医療従事者、製薬会社の人たちと接することが多く、また、新薬やさまざまな疾患を知ることで、病院での看護師とは違った広い視野で物事を捉えることができることになるでしょう。
臨床開発モニター(CRA)
開発業務受託機関(CRO)や製薬会社に勤務して、製薬会社の立場から治験を管理します。
治験を実施している医療機関を訪問し、治験が適切に実施されているか否かの確認(モニタリング)を行い、治験データを回収することが主な仕事です。
治験が決められた手順で行われているか、正しく適切に行われているかをモニタリングする役割があります。
そのため、治験が行われている医療機関を訪問したり、電話連絡をしたりして治験のモニタリングを行います。
その報告書を作成したり、治験を行う医師や治験コーディネーターの症例報告書などに不備がないかチェックをしたりすることも仕事です。
最近は、新薬だけでなく、医療機器の開発に関わる臨床検査技師の資格をもったCRAが増えています。
治験機関での具体的な看護師の仕事内容
治験コーディネーター(CRC)の仕事
・被験者への説明や精神的ケア
・治験のデータ管理
・書類の作成
・治験にかかわる医師をはじめ医療職との連絡調整
・臨床開発モニターへの報告や対応
臨床開発モニター(CRA)の仕事
・臨床開発を行う施設とその責任者である医師を決める
・治験に必要な申請書類を作成し、申請する
・治験が問題なくできているか観察していく
治験機関でのお仕事、給料はどれくらい?
治験コーディネーター(CRC)
転職してすぐのときは年収350~400万円ほどでしょう。
ただ、医療施設よりは昇給率が高いため、きちんと経験を積んで評価されれば、年収500万円程度までは稼げることが多いようです。
臨床開発モニター(CRA)
転職してすぐは年収420~450万円程度です。
スキルを身につけてきちんと仕事が認められれば、年収800~1000万円くらい稼ぐことも可能です。
たとえば外資系製薬会社などで役職につけば、1000万円以上稼ぐことがでるようになります。
治験機関での雇用形態
治験コーディネーターは、治験を支援する企業などに就職しますが、基本的には病院での常勤勤務をすることが多くなります。
正社員や契約社員のほか、アルバイトの求人もあり、常勤では働けないという人は、アルバイトの求人サイトで探してみましょう。
臨床開発モニターも、治験を支援する事業を行っている企業などに就職します。
雇用形態としては、正社員や派遣社員などがあります。
治験機関で働くメリット
新薬開発に貢献できる
新薬が承認されるために治験は欠かすことができません。
新薬が認可されれば、その薬によってたくさんの患者の命が救われたり、症状が軽減されたりすることにつながります。
常時看護をするわけではありませんが、将来のためにたくさんの患者を助ける仕事だと言えます。
日勤のみの仕事
治験機関で働く場合は日勤のみの仕事が基本で、夜勤をすることはありません。
ただし、臨床開発モニターは泊まりがけの出張などがあるかもしれません。
カレンダーどおりに休日がある
土日祝日がお休みとなり、年末年始も休みです。カレンダーどおりに休めるのは大きなメリットですね。
デスクワークの仕事が多い
計画書、申請書、報告書など作成する書類が多いので、パソコンによるデスクワークが多い仕事です。
治験を行う医療機関での仕事でも、実際に看護処置などをすることはありません。
ですからパソコン操作が必須です。
治験関連の仕事に就きたいと思ったら、まずパソコン操作を学びましょう。
給料が高い
前述しましたが、転職当初は年収が下がるかもしれませんが、数年すると日勤のみの仕事でも、夜勤をしたのと同じくらいの額が稼げます。
特に臨床開発モニターならば、それ以上の収入を得ることが可能です。
CRAやCRCになるには、看護師資格が必ずしも必要というわけではありませんが、看護師としての視点や経験を活かして働くことで、高額の給与が望めるでしょう。
しかし、ライバルも多いし薬学の勉強もしっかりしなくてはなりません。
挑戦する気持ちがある人にはやりがいがある仕事と言えます。
治験機関での仕事:まとめ
- 治験とは、新薬をつくるための安全性や有効性を確認するための仕事である
- 患者に認可前の薬を使用して、臨床試験のデータを蓄積することが治験である
- 治験は、厳密に慎重に、安全に行わなければならない
- 治験を行う患者には、十分なインフォームドコンセントを行う
- 治験機関は、受託臨床試験実施機関(CRO)と治験施設支援機関(SMO)がある
- 治験の仕事には、治験コ―ディネーター(CRC)と臨床開発モニター(CRA)の2つがある
- 看護師資格は必須ではないので、ライバルは多い
- 治験コーディネーターは、SMOか治験の病院で働く
- 治験コーディネーターは、治験を行う患者へのケアを行う
- 臨床開発モニターは、製薬会社に勤務して、製薬会社の立場で治験を管理する仕事である
- 給料は、転職してすぐは低いが、数年すると夜勤していたときと同じくらい稼げる
- 臨床開発モニターは、役職につくと給与が1000万円以上になる可能性もある
- 雇用形態は、正社員や契約社員、派遣社員、アルバイトなどがある
- 治験関連での仕事のやりがいは、新薬開発に貢献し将来の患者を助けることにある
- デスクワークが多いので、パソコンスキルは必須
【参考】
日本製薬工業協会『治験について』
<執筆者プロフィール>
南部 洋子(なんぶ・ようこ)
助産師・看護師・タッチケア公認講師・株式会社 とらうべ 社長。国立大学病院産婦人科での経験後、とらうべ社を設立。タッチケアシニアトレーナー